「タクシーが捕まらない」ーーこのような経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。昨今、都心部を中心に、深夜や雨の日、繁華街でアプリを使ってタクシーを探しても、配車に時間がかかることが珍しくありません。タクシーの供給不足が指摘される中、国土交通省は2024年4月から、「準特定地域におけるタクシー増車措置」を発表。特定地域で時限的な増車を認める方針を打ち出しました。運転手が確保できる事業者に限り、未稼働の車両を活用できる仕組みですが、抜本的な解決には至らないとの指摘もあります。一方海外では、UberやLyftなどのライドシェアが普及し、都市交通の一部として機能しています。日本でも、2024年から日本版ライドシェアが導入され、現在以下のエリアで運行が開始していますが、まだまだ稼働時間等に制限があり、タクシー不足の解消には至っていないのが現状です。参考:国土交通省 関東運輸局 自動車交通部 旅客第二課「日本版ライドシェア、公共ライドシェア等について」(令和6年10月)なぜ、日本ではライドシェアが普及しないのか。そして、タクシー規制緩和は都市部の移動をどう変えるのか。本記事では、タクシー業界の現状や運転手不足の課題を整理しながら、今後の都市交通の可能性を考えます。1. タクシー業界のリアルな現状とは?タクシー業界は長年、規制と需給のバランスに悩まされていました。バブル期以降、利用者の減少に伴い、事業者は収益確保のために台数を増やしたものの、結果として運転手の賃金が低下し、労働環境の悪化が進む事態に。さらに、過労運転による事故増加も深刻な問題となったのです。政府は供給過剰を抑制するため、2014年に「改正タクシー特別措置法」を施行し、厳格な規制を導入したものの、次は運転手不足という新たな課題が浮上しています。1-1. 運転手が足りない!深刻化する人手不足の理由一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の資料によると、令和4年度の運転者数は214,972人。平成24年以降、減少傾向にあります。参考:一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「TAXI TODAY in Japan 2024」この減少の要因として、賃金の低下、労働環境の厳しさ、タクシー運転手の高齢化などが挙げられます。特に、現在のタクシードライバーの平均年齢は59.7歳と高く、若年層の参入が少ないことが課題に。また、新型感染症が流行した2020年には、タクシー利用者が減少したことで、運転手の離職が加速しました。今後、待遇改善や働き方の多様化が進まなければ、運転手不足はさらに深刻化すると予測されています。1-2. タクシーが余っているのに乗れない?供給と需要のズレタクシーの需要は、直近数年で増加傾向にあります。令和2年度には、新型感染症の流行もあり輸送人員・営業収入ともに落ち込みましたが、最近のインバウンド等もあり、直近数年で回復してきました。参考:一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「TAXI TODAY in Japan 2024」しかし一方で、「タクシー利用で困った」という声も挙がっています。例えば「路上(流し)で捕まらなかった」「タクシー乗り場に車が来なかった」など、利用したいタイミングで利用できない、需要の高まりに供給が追いついていない現状が見られます。参考:モビリティプラットフォーム事業者協議会「移動実態に関するアンケート調査結果(中間報告)」2. タクシー規制緩和が進む!国交省の最新施策とは?国土交通省は、タクシーの供給不足を解消するため、2024年4月から特定地域での時限的な増車を認める制度を導入しました。特に、東京23区や福岡、札幌、大阪などの都市部では、既存の事業者が未稼働の車両を活用し、増車することが可能になります。ただ、この措置は2026年3月末までの期間限定であり、根本的な解決策とは言い難い側面もあります。2-1. 時限的な増車措置の概要国土交通省は、タクシー台数を制限している地域で、2024年4月から2026年3月末までの約1年間、時限的な増車を認める方針を打ち出しました。具体的には、東京23区や福岡、札幌、大阪など約60の営業地域で、稼働していない車両を他社が運行できる制度を設けています。参考:国土交通省「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法の施行状況及び効果について」(令和6年)2-2. なぜ今、規制緩和?その背景と政府の狙い2002年の規制緩和以降、タクシー業界は新規参入が増加し、供給過多による運転手の賃金低下や労働環境の悪化が問題となりました。これを受け、2009年にはタクシー特別措置法が施行され、供給過剰地域での新規参入や増車が制限されたのです。しかし、運転手不足が深刻化したため、今回の時限的な増車措置が導入されたという背景があります。3. 日本におけるライドシェアの現状と課題世界各国ではUberやLyftなどのライドシェアサービスが普及していますが、日本では未だに本格的な導入が進んでいません。その背景には、タクシー業界の強い規制や、運転手の安全・収益確保を重視する政策があります。2024年4月から、日本版ライドシェアの試験運用が始まりましたが、対象はタクシー不足が見込まれる特定の時間帯や曜日に限定され、配車もアプリ経由に制限されているのです。これにより、タクシーの供給不足を完全に補うことは難しい状況と言えます。参考:参考:国土交通省 関東運輸局 自動車交通部 旅客第二課「日本版ライドシェア、公共ライドシェア等について」(令和6年10月)3-1. 2024年スタートの「日本版ライドシェア」とは?導入状況について 2024年4月から、国土交通省はタクシー会社が運行を管理する形で、日本版ライドシェアの導入を開始しました。しかし、稼働時間や配車方法に制限があり、タクシーの供給不足を完全には補えていない状況です。3-2. 海外と何が違う?ライドシェアが普及しない壁日本でライドシェアが普及しにくい背景には、タクシー業界の強い規制や安全性確保のための厳しい基準が存在します。また、運転手の待遇や賃金水準の低さも、新規参入者が少ない要因となっています。4. タクシー、ライドシェア・・・これからの都市部移動はどう変わる?都市部における移動手段は、今後どのように変わるのでしょうか?タクシーの増車は一時的な解決策にすぎず、根本的な解決には業界全体の収益構造や労働環境の改善が不可欠です。一方で、ライドシェアの規制が緩和されれば、新たな移動手段としての選択肢が増える可能性もあります。しかし、日本のライドシェアは欧米のように自由に参入できるわけではなく、タクシー会社が管理する形態が主流となるため、大きな変化が起こるには時間がかかるでしょう。4-1. タクシー規制緩和とライドシェア、日本の交通網にどんな影響が?交通政策の変化により、タクシーの台数は一定数増えるものの、運転手の確保が追いつかない限り供給不足は解消されません。また、日本版ライドシェアは規制が厳しく、根本的な移動手段の変革には至っていません。今後の動向次第では、さらなる規制緩和や新たな移動サービスの導入が求められるでしょう。4-2. 未来の移動革命?MaaSが変える交通のカタチ都市部の移動はタクシーやライドシェアだけではなく、MaaS(Mobility as a Service)の発展によってさらに多様化する可能性があります。鉄道、バス、自転車シェア、タクシー、ライドシェアなどを統合することで、より効率的な都市交通システムが構築されると期待されています。参考:国土交通省「日本版MaaSの推進」5. まとめ:これからの都市交通、私たちの移動はどう変わる?タクシー規制緩和や日本版ライドシェアの導入は、都市部の移動に関する一時的な解決策にはなるものの、根本的な解決にはまだ至らないのが実情です。移動手段の選択肢を増やし、利用者の利便性を向上させるには、さらなる政策の見直しが求められるでしょう。